以前の「べにや旅館」はどのような建物だったのか
2018年5月の火災で焼失する前の「べにや旅館」は、昭和32年に建てられた築後50年以上経過している古い木造(一部鉄筋コンクリート)の二階建ての建物でした。そのたたずまいが歴史的景観に寄与しているとして国の登録有形文化財に登録されており、建物の間には池を配した美しい庭園が設けられていました。
私は2017年12月という、その建物の最後のカニシーズンに宿泊していました。古い日本家屋の特徴で風通しがよくて、北陸の冬場だと隙間風で暖房が効きにくい欠点がありました。そのため廊下のあちこちにストーブが設置されていて、部屋の中には石油ファンヒーターを点け、さらにエアコンをフル稼働させてようやく湯冷めしない程度の室温を保っているという状況でした。
しかし、その状況がかえって老舗旅館の雰囲気を漂わせており、大きなカニを使ったおいしいカニ料理と共に私にはとても好印象で、いずれまた宿泊したいと思いました。ラウンジから見る中庭も美しくて、庭に下りて池を泳ぐ鯉を眺めることもできました。
この時に撮影した中庭の写真を添付します。
突然の火災による「べにや旅館」焼失、そして再建
宿泊して半年くらい過ぎた翌年2018年5月のゴールデンウィーク中に、「べにや旅館」が火災によって全焼したという驚きのニュースが飛び込んできました。
[きょうの特集]
— おじゃまっテレ (@fbc_ojama) 2018年5月7日
福井県あわら市の老舗旅館「べにや」を襲った火事。この火事で、国の登録有形文化財になっている本館と中央館それに東館の3棟を全てを焼きつくしました。
温泉街では景観やブランドに大きなダメージを受けています。#おじゃまっテレ #福井 #あわら温泉 #火事 #べにや pic.twitter.com/cBZJHAY0nT
5月5日の午後0時50分頃に出火、後日の検証で本館2階大広間の天井裏の電気配線からの漏電が出火原因と思われる火災で、延べ約3100㎡の建物が全焼しました。宿泊客や従業員は避難して無事であったことがせめてもの幸いでした。
この年の12月にあわら温泉を訪れたときに「べにや旅館」のあった場所がどうなっているかを確認しましたが、元中庭があった一部を残して、その敷地のほとんどが更地になっており、半年前に宿泊した旅館があとかたもなく無くなっていました。この時の写真を添付します。
私としては、このまま廃業してしまうのはもったいないので再建してほしいと願っていましたが、その後「べにや旅館」が再建されるという朗報が伝わってきました。
そして昨年2020年の12月にあわら温泉に訪れた時には、すでに建築たけなわという感じでした。この時の写真を添付します。施工を担当したのが大手ゼネコンの清水建設であることが、新生「べにや旅館」の建築の規模の大きさを物語っています。
この時点では翌年の春に開業予定ということで、再建開業が待ち遠しい気持ちになっていました。
新築のあらわ温泉の「べにや旅館」に泊まってきました
新しい「べにや旅館」は、今年2021年7月15日に開業しました。お祝いしたい気持ちもあって早速9月末に宿泊してきました。新しい「べにや旅館」は、総床面積1768㎡の平屋建てで、部屋数は全室間取りが異なる17室だけに限定して、全室に源泉かけ流しの半露天風呂がついているという贅沢な造りになっています。光と風を感じるという意味の「光風湯圃(こうふうゆでん)」をコンセプトにしています。
今回宿泊した部屋は、「標準客室(ベッド)源泉掛け流し半露天風呂付 8畳ベッド+ダイニング」というタイプの部屋で、部屋名は「若草」でした。
雪見障子の大きな窓から外の光が取り込まれていて部屋は明るくて開放的です。ベッドの部屋の床は畳になっていて温かい感じです。内風呂は人が一人入るくらいの大きさの槇の風呂で、源泉の湯がちょろちょろと出続けていました。
内風呂に注ぎ続けているお湯は源泉のままで温度が50度くらいあるので、お風呂に溜まったお湯はそのままでは入れないくらい熱くなっています。水を注いで用意されているかき混ぜ棒で撹拌して適温にする必要がありますが、源泉が部屋の中まで来ていて、気楽に入ることができるのは至って贅沢です。
大浴場(希の湯/光の湯)も設けられていて、好きな時間に入りに行くこともできます。部屋には浴衣の他に作務衣も用意されていて好きな方を着ることができます。
室内のエアコンのコントローラーは「本間」「広縁」「寝室」の3つあって、それぞれ別々に温度設定が可能です。
トイレはもちろんウォッシュレットで人感センサ付きで、トイレに入ると自動的にフタが開くタイプのものです。
館内で最も関心があったのは前の建物でもあった中庭ですが、今回の新しい「べにや旅館」にも立派な中庭が造られていてロビーの大きなガラス窓からも見える構造になっていました。
中庭には下りることはできず、ロビー外側の縁側から庭を眺めることになります。池の鯉は残念ながら前の火災で全滅してしまって今は居ませんが、来年以降鯉を入れることを考えているとのことでした。
夕食は「旬の越前懐石プラン」です。どれもおいしく頂きました。ご飯は部屋の中で炊いた栗せいろ蒸しご飯でした。食事は質、量ともに満足しました。
夜になると昼間に見た中庭の様子も、ライトアップされて雰囲気が出てきました。
館内には自動販売機が設置されておらず、飲み物が欲しいときは室内の冷蔵庫の中にあるものを飲むか、フロントに電話して注文することになります。
ベッドの寝心地は良好でした。羽毛ふとんの掛け布団も心地よくてぐっすり休めました。
朝食は和食か洋食かを選べることができます。今回は和食を選択しました。
ご飯は、室内で銅製のお釜で炊き上げてくれます。一杯目はそのままで、2杯目は卵かけご飯で頂きます。
チェックアウトは午前11時までなので、出発までゆっくりできます。
今回は新築の真新しい建物に泊まることができ、設備や什器も全て新しくて、建材の木の香りも心地よくて満足できる1泊でした。
長いコロナ禍での旅行自粛の期間がようやく終わろうとしています。少し贅沢して新しく蘇った「べにや旅館」に宿泊してみてはいかがでしょうか。